住宅ローンを調べていると、よく目にする「35年ローン」という言葉。
多くの人が当たり前のように選んでいますが、なぜ35年という長期間が一般的になったのかご存知でしょうか?
実はその背景には、戦後の住宅政策や経済成長、そして日本人の「家に対する価値観」の変化が深く関係しています。
この記事では、住宅ローン返済期間の歴史をたどりながら、35年ローンが主流となった理由をわかりやすく解説していきます。
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もはや住宅ローンは「ペアローンにするしかない」情勢ですが、将来どのようなリスクがありますか?
◆住宅ローンと返済期間の基本をおさらい

このセクションでは、住宅ローンの基本的な仕組みと、なぜ多くの人が「35年ローン」を選ぶのかについて、説明していきます。
♢住宅ローンとは?
住宅ローンとは、マイホームを購入・建築するために金融機関からまとまった金額を借りて、通常20~35年(最近では40年を超えるケースも)などの長期にわたって返済していく仕組みです。
日本では多くの人が現金一括ではなく、この住宅ローンを利用して家を購入します。
そして、住宅ローンの返済には、主に2つの方法があります。
- 元利均等返済:
毎月支払う「元金+利息」の合計額が返済期間を通じてほぼ一定になる方式。家計収支を一定に保ちたい人にとって管理しやすい選択です。 - 元金均等返済:
毎月返済する「元金」の金額を一定にし、利息分は残債の減少に応じて少なくなっていく方式。返済開始当初の毎月支払額は高めとなりますが、残債が早く減るため、同じ借入条件なら総返済額を抑えやすい特徴があります。
初めて住宅ローンを組む方にとって、「どちらの方式が得か?」と迷うこともあるでしょう。一般的な選び方としては、
- 借入直後から家計に余裕があり、将来的に支出増(子どもの教育費など)を見込んでいる場合
⇒元金均等返済が適している - 毎月の支払いを大きく変えたくなく、安定収入を土台に返済したい場合
⇒元利均等返済が適している
と言えます。
また、返済期間については注意すべきポイントがあります。
たとえば、「返済期間を長くすれば、毎月の支払いは少なくなるけれど、最終的に支払う総額は多くなる」というように、メリットとデメリットがあるのです。
♢返済期間の平均と35年ローンの意味とは?
日本における住宅ローンの返済期間(借入時に設定される契約期間)は、一般的に30年以上、30~35年あたりが多いというデータがあります。
なかでも「返済期間を35年近くまで設定できるローン」を選ぶ人が多数派となっていて、これを「35年ローン」と呼ぶことがあります。
◎この「35年」という期間が人気の理由のひとつは、
たとえば借入額3,500万円を固定金利・元利均等返済・ボーナス払いなしという前提にしたとき、
- 25年返済 → 毎月の返済額がたとえば約15万円前後(※金利・返済方式によって変動)
- 35年返済 → 毎月の返済額がたとえば約11万円前後(同上)
このように、返済期間を長くすることで毎月の家計負担を軽くできるためです。
ただし注意すべき点は、返済期間を長くすればその分、利息の支払い総額も増えるというデメリットが必ず伴うということ。
住宅ローンの返済期間を決める際には、現在の金利水準・将来の収入見込み・定年退職時の収支など ライフプランを見据えた検討が重要 です。
◆住宅ローン返済期間の歴史的な背景を深堀り!

このセクションでは、戦後から現在までの住宅ローン制度の流れをたどりながら、「35年ローン」が一般的になった理由を歴史の中から読み解いていきます。
背景を知ることで、今の住宅ローン制度の成り立ちや日本人の「マイホーム観」がより深く理解できますよ!
♢戦後の住宅政策と住宅金融公庫の誕生
第二次世界大戦後、日本では深刻な住宅不足が起きました。
都市部では空襲による建物の被害に加え、地方から人が移り住んできたことで人口が増え、さらに住宅の建設が思うように進まなかったため、家を必要とする人が急激に増えました。
この問題に対応するため、1950年(昭和25年)に「住宅金融公庫」という、住宅ローンを専門に扱う機関が設立されました。
住宅金融公庫は、一般の会社員でも家を購入できるように、金利を低くし、返済期間を長く設定できる住宅ローンの仕組みを整えました。

「家を持つことが安定した暮らしにつながる」という考え方が広まり、住宅金融公庫はその価値観を社会に根づかせる役割も果たしたとされていますよ。
当時の金融や住宅業界では、住宅ローンの返済期間は、家の耐久性や建築のルールをふまえて、20年ほどの比較的短い期間で設定されることが多かったとされています。
その後、経済の成長にともなって住宅価格が上がり、建築技術の進歩によって家の性能や寿命も向上しました。
こうした変化により、若い世代がローンを組む際に「定年までに返済を終えたい」と考える傾向が強まりました。

若い世代にもっと利用してもらうために、金融機関は返済期間を長く設定するようになったんですね。
このように、返済期間が長くなり「35年ローン」が主流となった背景には、住宅の性能向上、ローンを利用する人の若年化、金融機関の方針の変化、そして国の住宅政策の影響など、いくつもの要因が関係しています。
♢高度経済成長期に「35年ローン」が定着した理由とは?
高度経済成長期(およそ1960〜1980年代)、日本では世帯の収入が大きく伸び、住宅の価格も上がっていきました。
そんな中で、これまで主流だった20年〜25年の返済期間では、毎月の返済額が高くなりすぎてしまう家庭も増えてきました。そのため、ローンの返済期間を長くする動きが少しずつ広がっていきました。
長期ローンが広まった背景には、主に次の3つの理由があります。
- 終身雇用や年功序列といった働き方が一般的だったため、「将来は給料が上がる」という安心感があり、長い返済期間でも不安を感じにくかった。
- 住宅ローンを支える制度や金融機関の仕組みが整い、たとえば住宅金融公庫のような機関が「長期間・低い金利」で貸し出すことを可能にしたことで、毎月の返済額を抑えることができた。
- 「家を持つことが安定した人生につながる」という考え方が広まり、若いうちに家を買って、定年までに返済を終えるというライフプランが一般的になっていった。
こうした流れの中で、返済期間が30年〜35年ほどの住宅ローンが標準的な形として定着していったと言われています。
バブル景気やその後のバブル崩壊を経ても、月々の返済負担を軽くするために「返済期間を長くする」ローンの仕組みは変わらず続きました。
「35年ローン」がひとつの目安として定着した背景には、住宅ローン制度や商品の仕組みが長く続いてきたことも関係しています。
◆なぜ『今』も35年ローンが主流なのか?

このセクションでは、今の時代でも「35年ローン」が多くの人に選ばれている理由を、金利や物価、家計の状況、そしてライフプランの視点から解説していきます。
♢金利・物価・家計バランスの関係からみる理由
今の日本では、長く続く「超低金利」の状況があります。これによって、長期間お金を借りても利息の負担が少なくて済むため、35年ローンが現実的な選択になっています。
さらに、物価や住宅価格が上昇傾向にあるなかで、
・頭金をたくさん用意するのが難しい若い世代
・子育てや教育費にお金がかかる世代
などにとって、「月々の支払いを抑えられる長期ローン」は現実的な選択肢と言えます。
◎たとえば、3,500万円を借りた場合の月々の返済額は…
- 25年返済 → 月約15万円
- 35年返済 → 月約11万円 その差4万円!
この4万円の差は家計に大きな影響を与えますよね。
そのため、金融機関も利用者も“35年ローン”をひとつの基準として考えることが一般的になりました。

金利が低い時期には「返済期間を長くして、浮いたお金を資産運用にまわす」といった考え方も可能です。
ただし、将来の金利上昇などのリスクに備えて、固定金利と変動金利のバランスを考えたローン設計が大切ですよ。
♢ライフプランとのバランスから考える理由
住宅ローンの返済は、結婚・子育て・老後など、家族のライフステージと深く関わる長期的な計画です。
とくに35年ローンは、こうした人生の節目に合わせて無理のない返済がしやすいという特徴があります。
- 子どもの教育費がかかる時期に、月々の返済額を抑えられる
- 定年までに完済できるように計画を立てやすい
- 家計に余裕を持たせて、保険や貯金など将来への備えと両立しやすい
こうした理由から、「家計に無理のない返済をしたい」と考える家庭ほど、35年ローンを選ぶ傾向があります。
また、最近では「繰上返済」や「借り換え」を活用して、実際の返済期間を短くする方法も一般的になっています。

最初は35年でローンを組み、生活に余裕が出てきたタイミングで返済を早めるというスタイルが、今の時代に合った柔軟な選び方として広がっていますよ。
◆この記事のまとめ

住宅ローンの返済期間が「35年」と聞くと、長いな…と感じる方も多いかもしれません。
でもこの年数が一般的になった背景には、戦後の住宅事情や経済の流れ、働き方の変化、そして家族の暮らし方の変化など、いろんな時代の積み重ねがあります。
ローンの仕組みは、ただの金額や年数の話ではなくて、これからの生活をどう支えていくかという安心感にもつながるものです。
だからこそ、「どうしてこの仕組みになっているのか」「なぜ多くの人が選んできたのか」を知ることで、自分に合った選択がしやすくなると思います。
「家を持つ」という決断は、人生の大きな節目。
その決断を支える住宅ローンも、時代に合わせて少しずつ形を変えながら、私たちの暮らしにそっと寄り添ってきたと言えるのではないでしょうか。

(執筆者:yuffy)

