「同居を機に、家の中をどう変えればいい?」
はじめまして、理学療法士の「たもち」と申します。
「おじいちゃん、おばあちゃんと一緒に暮らすことになったけれど、部屋割りはどうしよう?」
「子供も小さいし、みんなが安全に暮らせるか心配…」
そんな悩みをお持ちではありませんか? 実は、高齢者が要介護状態になる原因として、認知症や脳卒中と並んで常に上位に入るのが「転倒・骨折」です。家の中でのたった一度の転倒が、その後の生活を大きく変えてしまうことも少なくありません。
この記事では、現役理学療法士として訪問リハビリの現場を見てきた視点から、「高齢者の転倒を防ぎつつ、貴重な3世代同居を長く続けるための部屋割り・動線の工夫」について解説します。
幼児には安全でも…?「床環境」のパラドックス

3世代同居で最初にぶつかるのが、安全基準の違いです。 「赤ちゃんが転んでも痛くないように」と敷き詰めたフワフワのジョイントマットや、毛足の長いラグ。
これらは幼児には優しくても、高齢者には危険な凶器になる場合があります。
「円背(えんぱい)」とすり足のリスク
高齢になると背中が曲がり(円背)、重心が前方に行くため、どうしても足が上がらず「すり足」になりがちです。 そのため、マットのわずかな段差や、沈み込むような柔らかい素材、毛足の長い敷物に足を取られて転倒しやすくなるのです。 もし、どうしてもカーペットを敷きたい場合は、「カーペット用の両面テープ」を使い、端がめくれ上がらないように床に完全に固定しましょう。これだけでリスクは激減します。
お孫さんの「おもちゃ」も凶器に
床に散らばったミニカーやブロックは、視力の落ちた高齢者には見えにくく危険です。 お孫さんが遊ぶスペースはしっかりゾーニング(区画分け)し、高齢者が歩く動線には物を置かないことが鉄則です。また、万が一転倒した際に大怪我にならないよう、家具の角には「クッションガード」をつけておきましょう。
生活は「1階」で完結!生活空間でのリスク管理

部屋割りの最重要ポイントは、「生活に必要な設備(トイレ・キッチン・浴室)をすべて1階に集約すること」です。
トイレは「寝室」のすぐ近くに
生活動作の中で、圧倒的に頻度が高いのがトイレへの移動です。「間に合わないかもしれない」という焦りから、急いで移動しようとして転倒するケースが後を絶ちません。 そのため、高齢者の寝室はトイレに最も近い部屋を選びましょう。
ベッドからトイレまでの動線上に物を置かないことは鉄則です。 また、夜間のトイレ移動は、寝ぼけている上に足元が暗く、転倒リスクが跳ね上がります。廊下に「人感センサー付きのライト」を設置し、自動で足元が照らされるようにするなどの対策が非常に有効です。
階段昇降ができなくなったら?
今は元気でも、将来的に膝の痛みなどで階段の上り下りができなくなる可能性があります。 特にお風呂が2階にあると、それだけで自宅入浴が困難になり、早い段階から入浴のために介護サービス(デイサービス等)に頼らざるを得なくなります。
本来はリラックスできる楽しみな入浴も、移動だけで痛みや辛さを伴うようになると、次第に入浴そのものが億劫になってしまいます。 「自分の家で、好きな時にお風呂に入りたい」。その当たり前の願いを叶え続けるためには、生活動線を1階で完結させることが重要です。
食事も同様です。 中には、食卓に着くまでの移動だけで息切れや動悸を起こしてしまう方もいらっしゃいます。息が上がった苦しい状態で、ご飯を美味しく穏やかに食べられるでしょうか? 「最近、食事量が減った気がする…」。その原因は、食欲不振ではなく、実は「食べる前の移動で疲れ切っていること」にあるかもしれません。
そんな時は、食卓への移動だけ車椅子を使ってみるのも一つの手です。 「移動は楽をして、その分、食事を楽しむことに体力を使う」。 全てを自力で行うことにこだわらず、状況に応じて移動手段を変えてみるのも、長く在宅生活を続けるための賢い選択です。
もちろん、「歩けるうちは歩かないと筋力が落ちるのでは?」という賛否両論のご意見もあるかと思います。 しかし私は、単なる身体機能だけでなく、「その方が今、どのような体験をしているか(食事を楽しめているか)」という点も重視し、選択肢の一つとして提案するようにしています。
脱衣所には「椅子」を
入浴時は裸になるため、家の中で転倒リスクが最も高い場所の一つです。 脱衣所には必ず椅子を置き、座って着替えができるスペースを確保しましょう。立ったままズボンやパンツを履こうとしてバランスを崩すケースは非常に多いです。「座って着替える」、これも立派な転倒予防です。また意外と脱衣所から浴室に出入りする際に転倒する方が多いです。手すりの設置も検討するのが良いでしょう。
とにかく「横にさせない」!お孫さんのパワーを活用

訪問看護の現場にいると、日中の大半をベッドで過ごしてしまう方を少なからずお見かけします。 人間は動かないと、驚くほどの速さで筋力が落ちていきます。
特に注目したいのが、お腹の深層にある「腹横筋(ふくおうきん)」という筋肉です。これは「天然のコルセット」とも呼ばれ、体幹の安定性に大きく寄与しています。 興味深い研究として、この筋肉は「加齢ではあまり衰えないが、寝たきり(臥床)時間が長いと急速に低下する」と言われています。
一度落ちてしまった腹横筋を、高齢になってから元に戻すのは簡単ではありません。 「数週間」単位で、今まで出来ていたことが出来なくなっていく……そんなケースを防ぐために大切なのは、意識的に「離床(りしょう)時間」を作ることです。腹横筋の自主トレーニングをしたい方は動画をチェックしてみてください。
【サボり筋1分トレ】腹横筋
リビングに行きたくなる仕掛け
ただ「リハビリのために起きて」と言っても、辛いだけで続きません。しかし、「リビングに行けば可愛い孫がいる」となれば話は別です。 動線は手すりをつけて安全にしつつ、日中はリビングで過ごしてもらう。
お孫さんとの会話や遊びが、結果として「座り続ける・腹横筋を使う」という立派なリハビリになります。
まとめ
最近では少なくなった3世代同居ですが、家族が支え合えるかけがえのないスタイルです。
- 床の段差対策(テープ固定やゾーニング)
- 1階での生活完結(将来を見据えた配置)
- お孫さんとの時間(離床の動機づけ)
この3つの工夫を取り入れて、転倒リスクを減らし、家族全員が笑顔で長く暮らせる環境を整えてみてください。
執筆者:たもち(理学療法士)

