日本の少子化が、想定を上回るスピードで進行しています。 2024年(令和6年)の年間出生数は約68万6,000人と、ついに「70万人」の防衛ラインを割り込みました。前年から約4万人以上の減少となり、減少ペースは加速の一途をたどっています。
さらに2025年の推計では、出生数が 65万〜67万人台 にまで落ち込む可能性が高まっており、社会システムの維持に対する危機感がかつてないほど高まっています。
本記事では、最新の確定データ(2023年)および2024年の動向をもとに、表面的な数字の裏にある「構造的な変化」と、今後求められる対策について深掘りします。
合計特殊出生率1.2 → 女性が生むのは一人?

合計特殊出生率とは、一人の女性が生涯に産む子どもの平均数を示す人口統計の指標です。具体的には、15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したものを指します。
日本の最新の合計特殊出生率は1.15です。これは2024年の統計に基づいており、1947年に統計を取り始めて以降、最も低い数値となっており、9年連続で前年を下回っています。

合計特殊出生率が1.15ということは、必ずしも日本の女性が一人しか子どもを産まないということを意味しません。 実際には、子どもを全く産まない女性と、2人以上産む女性がいることを反映しています。日本の出生率の全体的な傾向を示す指標であり、個々の女性の出産行動を直接反映するものではありません。
現状:合計特殊出生率1.15へ低下、出生数は過去最少を更新
まず、直近の主要データを確認します。
- 2023年(確定値): 出生数 72万7,288人 / 合計特殊出生率 1.20
- 2024年(推計値): 出生数 約68万6,000人 / 合計特殊出生率 1.15
合計特殊出生率「1.20(2023年)→ 1.15(2024年)」という数字は、単に「女性が産む子どもの数が減った」ことだけを意味しません。「子どもを持たない選択をする人」や「持ちたくても持てない人」が増加し、母数となる女性人口そのものの減少も相まって、負のスパイラルに入っていることを示しています。
| 出生順位1) | 昭和60年 (1985) | 平成7年 (’95) | 12年 (2000) | 17年 (’05) | 22年 (’10) | 27年 (’15) | 令和2年 (’20) | 3年 (’21) | 4年 (’22) | 5年 (’23) |
| 総 数 | 1,431,577 | 1,187,064 | 1,190,547 | 1,062,530 | 1,071,305 | 1,005,721 | 840,835 | 811,622 | 770,759 | 727,288 |
| 第1子 | 602,005 | 567,530 | 583,220 | 512,412 | 509,736 | 478,101 | 392,538 | 372,434 | 355,523 | 338,908 |
| 第2子 | 562,920 | 428,394 | 434,964 | 399,307 | 390,213 | 363,244 | 304,028 | 294,444 | 281,418 | 266,195 |
| 第3子以上 | 266,652 | 191,140 | 172,363 | 150,811 | 171,356 | 164,376 | 144,269 | 144,744 | 133,818 | 122,185 |
出生順位別データが示す「本当の危機」
2023年の確定値を出生順位別(第1子、第2子…)に見ると、少子化の構造的な要因が見えてきます。
2023年 出生順位別内訳
- 第1子: 約33.9万人
- 第2子: 約26.6万人
- 第3子以上: 約12.2万人
誤解されがちな「第3子の安定」と実態
一部の分析では「第3子以上の減少幅が小さいため、多子世帯は安定している」と見られがちですが、長期トレンドで見るとその解釈は楽観的すぎます。 実際には、第3子以上の出生数も、2015年の約16.4万人から2023年には約12.2万人へと、8年間で約25%以上減少しています。 これは第1子・第2子の減少ペースと連動しており、「第1子の壁」だけでなく「3人目の壁」も同様に高くなっているといえます。
「第2子+第3子 > 第1子」の意味
グラフの通り、「第2子以降の合計(約38.8万人)」が「第1子(約33.9万人)」を上回る構図は続いています。 これは、「一度出産した家庭は、兄弟姉妹(2人目以降)を持つ傾向が依然として残っている」ことを示唆します。しかし、その絶対数は年々縮小しており、「そもそも第1子を持つ(親になる)」ことのハードルが極めて高くなっている点が最大の問題です。


2025年以降の見通し:「二極化」と「底割れ」
2025年の出生数は、さらに減少して65万人台に突入する見込みです。これは政府の「低位推計」をも上回る減少スピードです。 ここから読み取れるのは、日本社会における出産・育児の 「二極化」 です。
- 「持たない・持てない」層の拡大
- 経済的不安、未婚化、晩婚化により、第1子の出産に至らない層が増加し続けています。
- 「複数子」層の健闘と限界
- 第1子を持った家庭は第2子以降も望む傾向がありますが、教育費の高騰や共働き負担の限界により、その意欲も削がれつつあります。
今後望まれる「フェーズを変えた」対策
これまでのデータから、従来の延長線上の対策では効果が限定的であることが明らかです。今後は、以下の2つの軸を明確に分けたアプローチが不可欠です。
① 「第1子の壁」を壊す(エントリー層への支援)
出生数の減少を食い止めるには、まず「親になる層」を減らさないことが最優先です。
- 若年層の所得向上: 結婚・出産をためらわせる最大の要因である「経済的不安」の解消。
- キャリアと育児の完全な両立: 「子どもを産むとキャリアが止まる」というリスクを構造的に排除する(男性育休の義務化定着、時短勤務の不利益解消)。
② 「第2子・第3子の壁」を下げる(拡張層への支援)
すでに子育てをしている世帯が、もう一人産みたいと思える環境整備です。
- 「3人目の壁」への直接投資: 第3子以降の大学無償化の所得制限撤廃や、児童手当の大幅拡充。
- 社会的ケアの拡充: 核家族・共働きでも回るよう、保育だけでなく「家事代行」「病児保育」などへの公的支援強化。
まとめ:2025年は分岐点に
2024年の68.6万人、そして2025年の65万人台という数字は、日本社会が「静かな有事」にあることを告げています。
「すべての順位で子どもが減り続けている」という直視すべき事実に基づき、第1子へのハードル低減と多子世帯への支援強化を、かつてない規模とスピードで実行する必要があります。
(執筆者:AKKA 構成・編集:CraftLife)


