全国の自校給食まとめ|自治体ごとの取り組み・導入状況を徹底解説

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(写真:photo AC)

最近、福岡市の給食で「おかずが唐揚げが1個だけだった」という内容がSNSに投稿され、大きな話題になりました。背景には物価高騰や予算の制約など、複雑な事情があるとされます。

給食は全国的に導入されている制度ですが、実は地域や自治体によって、その内容や運営方式には意外と大きな違いがあるのが実情です。

この記事では、給食の仕組みの1つである自校給食を取り上げ、メリット・デメリットなどを解説します。日本全国のさまざまな自治体の事例も紹介しますので、ぜひチェックして給食制度への理解を深めましょう

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自校給食とは?正しく理解するために基本情報を把握しよう

「自校給食という名前は聞いたことがあるけど、具体的にどんな仕組みなのかはよく分からない」という保護者の方は少なくありません。

ここからは自校給食とは何か、定義や仕組み、センター方式との違い、そして導入の背景について解説します。

自校給食とは「学校内調理型」の給食制度

「自校給食」とは、児童が通う学校の敷地内に調理施設を設けて給食を作る方式のことです。

作りたての給食をそのまま配膳できる点はメリットですが、設備維持や人員確保といった課題もあるため、導入するかどうかは自治体ごとに判断されています。

センター方式との違いは調理場所と運営主体

学校給食には2種類があり、「自校方式」の他には「センター方式」があります。

センター方式とは?
地域ごとに設けられた給食センターで一括して調理されたものを、各学校に配送するスタイル

この方法は効率的で、大規模調理によりコストを抑えやすい点がメリットです。栄養士や調理員を一括採用・配置しやすいため、人材確保の面でも安定運営がしやすいでしょう。

ただし、調理から提供までに時間がかかるため「ごはんが冷めている」「揚げ物が油っぽくなっている」といった声も聞かれます。

自校給食導入の背景

自校給食は、戦後の学校給食制度の整備とともに全国に広まった方式です。多くの学校で校内に調理室が設けられ、できたての給食が提供されてきました。

自校方式は給食を提供するだけでなく、以下のような教育・地域連携面での役割も担っています。

  • 災害時の炊き出し拠点
  • 調理スタッフとのふれあい
  • 食育活動の推進

しかし、時代の流れとともに人手不足や調理設備の老朽化といった課題から、センター方式へ移行する自治体もあります。

参考:農林水産省「学校給食の現状」

自校給食とはどんなメリットやデメリットがある?

自校給食には、メリットとデメリットの両面があります。これらを正しく理解しておくことは、子どもたちの健やかな食環境を考えるうえで欠かせません

ここからは、自校給食の主な利点と課題についてご紹介します。

自校給食のメリット

自校給食には、以下のようなメリットがあります。

メリット詳細
できたてが食べられる調理室が校内にあるため、調理から配膳までの時間が短く、料理の温度や食感が調理直後の状態に近いまま提供されやすい
地域の特産物や食文化に合う献立が作りやすい旬の食材や地元の郷土料理を取り入れることで、食育との連携が深まり、子どもたちが食べ物の背景や作り手の存在に関心を持つきっかけ作りができる
調理員との距離が近い「おいしかった!」という感想が直接伝えられるなど、人とのつながりを実感できる環境が整っており、食への感謝や社会性の育成につながる
子ども一人ひとりに目を向けた食の提供が可能アレルギーなどにも柔軟に対応できる

自校給食では、たとえば、揚げ物は衣の食感が保たれやすく、汁物も温かさを感じやすい状態で配膳されるため、よりおいしく感じやすいでしょう。

このようにたくさんのメリットがあることから、最近は自校給食を評価し直し、導入や再整備を検討する自治体もあります。

自校方式のデメリット

自校給食には多くのメリットがある一方で、運営面には課題もあります。最も大きな負担となるのが、人材の確保と施設の維持管理にかかるコストです。

自校方式では、学校ごとに調理員や栄養士の人員配置が必要になります。そのため、人件費がセンター方式よりも高くなりがちで、予算に限りのある自治体では負担が重くなるかもしれません。

また、調理室や厨房設備を安全かつ衛生的に保つためには、定期的な修繕や改修工事が必要です。特に築年数の古い校舎では、配管や換気などの再整備に費用がかかり、施設の老朽化対策が自治体の大きな悩みの一つとなっています。

このように、自校方式には「継続的な管理・運営の手間と費用」という問題がある点も理解しておくことが大切です。

自校給食を実施している自治体を紹介

(写真:photo AC)

全国的にはセンター方式が主流になりつつある状況ですが、地域の食育や温かい給食を重視して、自校方式を維持・推進している自治体も少なくありません

ここでは、全国を8つのエリアに分けて、自校給食を導入している代表的な自治体や特徴的な取り組みを紹介します。

北海道地方

自治体名状況詳細
音更町(十勝管内)町内すべての小・中学校で自校式給食を実施。十勝管内唯一・小規模校から大規模校まで全16校で自校調理
・各校の規模に応じた献立と運営体制
北見市小学校16校・中学校1校で自校式給食を実施。・1日あたり小学校など約5,400食、中学校など約2,900食を提供
・地場産食材を使用し、産地も公表
・アレルギー対応マニュアルの整備
函館市単独校方式と親子共同調理方式を併用。全57校で完全給食を実施・単独校方式は6校で実施。親学校18校から子学校33校へ副食を供給する親子方式を採用
・米飯給食は週3回、地元産の「ふっくりんこ」を使用

東北地方

自治体名状況詳細
青森市市内小学校3校で単独調理方式を採用・アレルギー対応
・「八甲田牛」など、地域の食材を使った給食を提供
弘前市(青森県)2つの給食センター(東部・西部)と、1つの自式校(常盤野小・中)で運営・給食センターが小中・養護学校まで広範囲をカバー
・アレルギー対応食の提供
・「食育月間」や「ふるさと産品給食の日」などを設定し、地産地消を推進

関東地方

自治体名状況詳細
千葉県柏市自校方式(小35校・中17校)+センター方式併用・地産地消(柏産米・かぶ・ほうれん草など)
・バイキング給食・手作りルウ・だし、アレルギー対応
・学校ごとに献立を工夫
・自校調理場を可能な限り維持する方針を公表
埼玉県朝霞市自校式給食室を3校に設置し、センター方式と併用運用朝霞第4・第5・第8小学校に自校式の給食室があり、各校で合計約2,800食を調理。安定的な給食提供体制を構築
埼玉県幸手市小中学校で自校給食を実施・自校式で手作りの温かい給食を提供
・地産地消や調理コンクールでの受賞実績も多数
東京都国分寺市小学校10校で自校方式を採用・豆類や小魚、海藻を多く使用し、鉄分やカルシウムの摂取に配慮
・地場産野菜の使用も推進

中部地方

自治体名状況詳細
一宮市(愛知県)市内全61校のうち、旧尾西・木曽川地区の小学校10校と中学校4校で、各校単独調理場を使った給食調理を継続(計8,639食)・地元産食材の活用に力を入れており、米や小麦、野菜、牛乳の多くを愛知県内、特に一宮市・稲沢市で生産されたものから供給中
・「一宮を食べる学校給食の日」や「愛知を食べる学校給食の日」を通じ、地域の農産物や郷土料理に親しむ機会を年3回設け、地産地消と食育を推進
静岡市小199校・中79校で自校給食を実施・地元産食材や郷土食を取り入れた献立で地産地消と食文化の理解を推進
・給食を通じて食材や生産者への感謝の心を育み、食育の「生きた教材」として活用家庭でも再現できるよう給食レシピを公開
・家庭での食習慣づくり支援
甲府市(山梨県)小学校165校中36校・中学校78校中8校で自校給食を採用・主食はご飯かパンで、麺類を月2~3回実施
・副食は、温かいものは温かく冷たいものは冷たく食べられるよう工夫

近畿地方

自治体名状況詳細
岸和田市(大阪府)小学校全校で自校方式・岸和田市内で作られた「エコ農業米」を使用するなどして地産地消を推進
・アレルギー対応ガイドラインの整備
・安全・丈夫で扱いやすく、比較的軽いという理由からAbs樹脂製の食器を使用
泉大津市(大阪府)市内全小学校で自校式を採用・栄養教諭や給食調理員が連携して献立を作成
・毎月19日前後には「食育の日献立」として各地の郷土料理を取り入れ、全国の食文化に親しめる工夫
・児童用の食器は市のキャラクター「おづみん」入りの特別デザインで親しみやすさを演出
宝塚市(兵庫県)小中学校で自校調理場方式を採用・手作りにこだわり、食事は適温で提供
・アレルギーのある児童に対応した、除去食の提供を行っている

中国地方

自治体名状況詳細
広島市(広島県)自校・センター・デリバリー併用・毎月19日を「わ食の日」と定め、旬の食材や地元の料理を取り入れた和食献立を提供
・衛生管理や栄養基準に基づいた安全でバランスの取れた給食を通じて、食育の実践を図る
・家庭との連携も視野に入れたレシピ提供などの情報発信も実施中
廿日市市(広島県)市内3校で自校方式を採用・アレルギーのある子どもに配慮した、明確な対応方針に基づいた体制の整備
・地元の食材を使った「和食」メニューの提案や「ひろしま給食」プロジェクトなど、地域と連携した食育の積極的な実施
岡山市市内45校で直営の自校調理方式を採用(22校が民間委託で自校給食を実施)・児童生徒の健康や発育を支える教育の一環
・主食・主菜・副菜を基本に、さまざまな調理法を取り入れたバランスの良い献立
・学校行事にも配慮した月ごとの献立作成
・保護者向けにレシピや情報をLINEなどで発信中

四国地方

自治体名状況詳細
四国中央市(愛媛県)川之江地域の小7校+中2校で自校方式を採用・地元産の農水産物を日常的に取り入れた和食中心の献立で、地域色豊かなメニューを提供
・栄養教諭が地元の農家や関係者と連携し、旬の食材の背景や想いを給食時間や授業に反映
・給食センターと生徒がノートで感想をやりとりするなど、児童生徒との双方向コミュニケーションを重視した取り組みを実施
今治市(愛媛県)単独調理場10カ所+共同調理場11カ所・1983年から完全自校式に転換
・調理場ごとに栄養士が献立を作成し、地元産の食材を柔軟に取り入れられる体制を確立
・愛媛県の認証「エコえひめ」を取得した特別栽培米や大豆など、環境と健康に配慮した食材を優先使用・地域ごとに地産地消を推進

九州地方

自治体名状況詳細
北九州市(福岡県)小・特支133校が自校単独方式・和食を基本とした栄養バランスの良い献立
・旬の野菜や地場産物を積極的に使用・シェフ・大学・地域とのコラボによる多彩な献立
・行事食やカミカミ献立、野菜の日献立など、季節感や健康意識を高める工夫
水巻町(福岡県)小学校で自校方式・児童が給食作りの様子を身近に感じられる環境
・手作りを基本とした、家庭の食事のモデルとなる栄養バランスの良い献立を提供
・地元産の野菜を活用した給食が評価され「九州農政局長賞」を受賞
・地産地消に積極的
宗像市(福岡県)市内全ての小中全校で自校方式を採用・物資は市登録業者から供給、国産・無添加・低農薬の食材を優先して選定
・米や麦、牛乳、米粉など地元宗像市や福岡県産の食材を積極的に活用し、直売所や漁協からも新鮮な地場産物を調達
・栄養バランスを重視した献立を通じて、家庭での食生活や将来の食習慣のモデルとなるよう工夫

特色ある自校給食を実施している自治体の具体例

全国には、自校方式を活用しながら独自のスタイルで給食を提供している自治体が数多く存在します。

ここでは、特に地域の特性を活かした食育や地産地消を推進している3つの自治体をご紹介しましょう。

【東京都中野区】手作りで安心の自校給食

中野区では、すべての小中学校で自校方式を採用し、各校に調理室を設けて給食を提供しています。

各学校の栄養士が献立を作成し、季節の行事食や東京都産の食材を取り入れるなど、地域色を生かした食育にも力を入れている点が特徴です。

調理ではできるだけ既製品を使わずにだし汁も手づくりするなど、こだわった姿勢が徹底されています。

また、アレルギーへの個別対応や衛生管理も厳格に行われており、安心して食べられる環境が整えられているところも魅力です。

保護者向けに試食会を実施するなど、家庭との連携にも積極的に取り組んでいます。

【愛媛県今治市】本格的な地産地消給食

今治市は旧給食センターの老朽化を機に、自校調理場への転換を進めました。現在では自校方式に加え、親子・共同調理方式を併用しながら、約13,000食を提供しています。

各調理場が独自に献立を作成しており、地元の特別栽培米や小麦、大豆などを積極的に使用。

旬の地場野菜や果物の活用、有機野菜の導入にも力を入れており、特に立花地区では年平均で35%程度の有機使用率を達成しています。

さらに地元産のマダイやイノシシ肉など、地域性を活かした食材も給食に取り入れてきました。毎年開催される「地産地消今治ブランド週間」では、今治産の食材だけを使った給食週間も実施されています。

【兵庫県加古川市】地元ブランド食材を活かした自校給食

加古川市では、地元産の食材を活用した自校給食を通じて、食育と地産地消の両立を目指しています

市内で収穫された米や紫黒米、兵庫県産デュラム小麦を使った「加古川パスタ」など、地域色豊かな食材を日常的に取り入れているのが特徴です。

特に「志方健やか米」は化学肥料をほとんど使わず育てられた安心・安全なお米として知られ、給食週間にはブランド米として提供されています。

まとめ|給食制度の違いを知ることが保護者の安心につながる

「給食」と聞くと、全国どこでも同じ内容が提供されているように考えがちですが、実際には地域によってその仕組みや方針はさまざまです。

なかでも「自校給食」は施設の老朽化や人材不足、運営コストなどの問題点がある一方で、できたての温かい食事が提供できる、地元食材を使いやすいといった魅力があり、改めて注目が集まっています

お子さんが安心して食事を楽しめる環境を考えるうえで、大人が給食制度に関心を持ち、違いを知っておくことは欠かせません

お住まいの地域ではどのような給食方式が採用されているのか、ぜひ一度確認してみましょう。

(執筆者:渡辺 ゆき)