いまでは信じられませんが、40年前の1985年頃、日本には専業主婦がたくさんいました。共働き世帯の数を大きく上回り、専業主婦世帯が過半数を占めていました。
この時期、日本は世界でも類を見ないような高度経済成長を迎え、夫は会社で終身雇用、妻は家庭を守る、いわゆる「夫が外で働き、妻が家庭を守る」スタイルが定着していったのです。
江戸時代から戦前、終戦直後にかけて日本社会は基本的に共働きが主流だったと言われていますが、高度経済成長期だけは、アジア諸国の中でも珍しい「専業主婦」システムが定着しました。
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なぜ「黄金時代」と呼ぶの?
この時代、日本はバブル景気で所得が上がり、夫の給料だけで家族が豊かに暮らせる時代でした。昔の欧米のテレビドラマのような「きれいな奥さん」が象徴的で、最新の家電製品を扱う専業主婦は「豊かさのしるし」として憧れられていたのです。
専業主婦であることはステータスとされ、多くの家庭がそういう生き方を目指しました。いまでも専業主婦への憧れが一部であるというのも、この時期に確立された理想像が日本社会に根付いている証拠だと思います。
年金制度も専業主婦にやさしかった
さらに「夫が外で働き、妻が家庭を守る」システムは、国益にも沿っていたため、国もこの制度の維持を後押しします。
そして1985年には「第3号被保険者制度」が発足しました。それまで専業主婦は基本的に、夫の年金で保障されるという考え方が一般的でした。しかし、国民年金に任意加入していない妻が離婚した場合など、受給できないという問題も生じてきました。
そこでサラリーマンの妻も国民年金の加入を義務付け、1人づつ、基礎年金を支給することになりました。その保険料負担については、医療保険同様、夫の加入する被用者年金制度で対応することになったのです。
これは、夫が会社で年金に入っていれば、専業主婦である妻も自動的に年金に入れる制度です。しかも、妻自身が保険料を払う必要はありませんでした。
つまり、「働いていなくても年金がもらえる」時代の到来。専業主婦が老後の安心を手に入れた、大きなポイントでした。
でもだんだん、形が変わってきた
バブルがはじけ不景気が続くと、夫の収入だけでは生活が苦しくなり、女性も仕事を探すようになってきました 。
さらに1990年代には「共働き世帯の方が多い時代」へ変わっていきます。やがて専業主婦世帯は減り、共働きが新しいスタンダードになってきました。
年金制度自体も、年金を受給するОB世代が増加。保険料を納める現役世代とのバランスが変化していったのです。国も制度改正に迫られるこになります。
「不公平では?」と思う人も出てきた
専業主婦が自分で年金を払わなくても年金がもらえるこの制度、「不公平では?」という声も出てきました。
特に、共働きして自分で保険料をていねいに支払っている人たちからは、「なんで専業主婦は払わなくてもいいの?」という疑問が上がり始めました。
制度の見直しも進んでいる
2000年に入るころから、年金の支給開始年齢も現在の65歳に向け、具体的な改正が行われてきました。高度経済成長が鈍化し、受給者の増加に見合う保険料を支払う現役世代の伸びが見込めなくなったのです。当然、女性の社会進出は国策として後押しされるようになってきました。
2020年代に入り、「専業主婦だけもらえる年金」について制度を見直す動きも出ています 。
たとえば、パートでも厚生年金に入れる制度が広がり、第3号被保険者が減りつつあります。また、女性が安心して働き育児できるように、保育所の増加や働き方改革も求められています 。
ただ気になるのが、専業主婦時代の名残が社会全体にまだ残っている点です。この風潮により、育児などの負担が女性に集中する「ワンオペ問題」がなかなか解決できない状況を後押ししていると見られるのです。
政府でもこうした社会制度の改革を進めるため、様々な施策を近年打ち出しており、今後、「社会で子どもを育てる」という風潮がいち早く定着することが求められています。

まとめ:専業主婦の黄金時代って…?
- 黄金時代:1980年代中頃〜1990年代初め。専業主婦の世帯が多く、安心して年金がもらえた時代。
- なぜその時代?:夫の収入だけで暮らせ、年金制度も専業主婦にやさしかった。
- どう変わった?:不況以降、女性が働き始め、共働きが主流に。専業主婦世帯が急減。
- 今は?:制度の不公平感を見直し、共働きを応援する仕組みへと動きつつある。
次回予告
次は、夫の収入により二極化してきた「専業主婦」や「共働き世帯」の現代的課題について見ていきたいと思います。
(執筆者:スモール・サン)