経済的にも精神的にも子育てはリスクだらけだが、「独身税」とも揶揄される「子ども・子育て支援金制度」の登場によって、育児負担が集中する「ワンオペ」から女性が解放されるー今年から来年にかけて、子育て環境を巡る日本社会の大転換が本当に始まるかもしれない。
秘書官に抜擢していた長男の「忘年会問題」など色々と批判される点もあったのだが、ジョークではない「異次元の少子化対策」を推進した岸田文雄前首相の功績は、池田勇人元首相の「所得倍増計画」や佐藤栄作元首相の「沖縄返還」などのように歴史に名を残すことになる可能性がある。
子ども未来戦略「加速化プラン」を実現させるため、2012年の成立以来初となる「子ども・子育て支援法」などの改正法が昨年成立した。持続可能性のある法的裏付けを持った、子ども・子育て支援金制度の「支援金」徴収が、来年度から全国民、企業などを対象に始まる。平成の時代には考えられなかったのだが、「独身」を謳歌するムードと「子育て」リスクが明暗逆転する日がそう遠くないかもしれないのだ。本当なの?と思われる方も多いと思うので、その理由を徐々に明らかにしていきたい。
「子ども・子育て支援金制度」の何がすごいのか
岸田前首相は子ども・子育て政策に関する会見で「少子化のトレンドを反転させる。これは経済活動や社会保障など我が国の社会全体にも寄与します」と意気込んだ。つまり「少子化」という子育て問題を日本社会の経済発展に紐づけたのだ。子育てリスクを重々承知(笑)の岸田前首相が打って出た。
2024年6月には改正子ども・子育て支援法が成立。これまで毎年の予算措置で事業展開していた子育て支援策もあったが、持続性の高い法制化事業となり、将来にわたって義務付けられることになった。同法に関連する子育て支援策の予算規模はなんと3兆6千億円。昨年度の国家予算(一般会計)112兆円の3%も占める。
「独身税」で反対デモは起きるのか
異次元の少子化対策事業の財源に充てるため打ち出された「子ども・子育て支援金制度」は、子育て当事者以外からも徴収することから、「独身税」と捻った捉え方もされている。1兆円分は同制度で毎年確保していく。一見個人的営みに見える子育て支援を国民全体で経済負担していこうという制度だ。公的医療保険に上乗せされる形で強制徴収される。
子ども家庭庁によると、医療保険の全制度平均で令和10年度見込みの1人当たり支援金額は月額450円。年間で5400円になる。令和3年度実績の医療保険料平均の4.7%に相当すると試算している。来年度からこうした負担を強いられるのだが、いまのところ表立って「独身税」反対デモは起こっていないようだ。
トランプ関税で巨大マーケット日本に注目
すべての発端は日本の出生数が政府の予想を上回るスピードで減少し、2030年代に入ると若者人口の減少スピードが倍増することが予測されていることだという。今後5年間が少子化傾向を反転できるかの正念場になる。若者人口の減少は「拠出」の中心となる現役世代の減少を意味し、全国民が「給付」を受ける社会保険制度の安定維持の破綻に繋がる可能性がある。
移民受け入れの積極転換が困難な日本にとって、若者人口の減少は人口減少に直結し、1億人を超える巨大マーケットの縮小を意味する。つまり日本経済にとって大打撃になってくるのだ。トランプ関税問題が話題になっているが、国家として「自主独立」が大原則だとすれば、日本人自らの努力でコントロールできる国内問題の解決に政治がより力を注ぐのは当然だろう。トランプ大統領の思考は予測できなくても、利害関係を共有する日本人同士は理解し合える可能性が高い。
まとめ
岸田政権時に着手した「異次元の少子化対策」によって、子育て支援の問題は「日本の経済、財政問題」だという意義が際立ってきた。国民は「子ども・子育て支援金制度」に対し首を傾げながらも大きな反対の声にまで至っていない。法制化されたことにより、「子育て支援問題=経済問題」だという国民を巻き込んだトレンドはある程度、固定化された。制度実施には注視が必要だが、少子化に歯止めがかかることが全国民の願いだろう。
今回は「子ども・子育て支援金制度」の歴史的意義についてまとめてみた。次回以降はさらに深掘りし、大幅拡充した「児童手当」(現金給付)などについて、制度の詳細、更にその制度は子どもが成人するまで拡充トレンドで続いていくのか、出産した女性の「ワンオペ」リスクは解消されるのか、子育て世帯にとって気になるポイントを見ていきたいと思う。
(執筆者:スモール・サン)