異次元の少子化対策のひずみか~「こども誰でも通園制度」の課題~

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画像:こども家庭庁のこども誰でも通園制度動画

「こども誰でも通園制度」は令和6年度から試行的事業が始まっている加速化プランの目玉事業の一つ。これまで共働き以外の世帯で幼稚園などに預けることができなかった生後6ヵ月から2歳までの乳幼児が通園できる。「ワンオペ育児」からママを解放するためにも、子育ての「社会化」にとって画期的な事業だと思う。

ところが来年度の本格実施が迫るにつれ、全国各地の保育現場では、疑問や不安の声が強まっている。ネットを検索すれば、評価する意見と共に、専門家や現場の担当者からは様々な問題点の指摘も出ている。医療や福祉の現場と同様、幼児をケアする保育士の人材不足は深刻化しており、これまで利用していなかった乳幼児が不規則的に通園することになる全国の保育関連施設で、新たな専門人材を全国一斉に確保できる余力はどこにあるのだろうか。

想定されているのは、1人当たり月10時間以内の短期利用。保育施設の生活リズムが身についている正式入園の幼児と違い、環境に慣れていない幼児のケアは、保育士にとって大きなストレスになり手間もかかる。「誰でも通園制度」なる斬新な名称で制度設計だけは進んでいるが、果たして、本番まであと1年を切り、老婆心ながら「中学校部活動の地域移行」のように地域に混乱を招く結果にならなければいいがと危惧している。

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未満児のタブーに踏み切ったすごさ

保育施設としては、保育園・幼稚園・認定こども園などあるが、保育園の入園は厚労省の管轄で0歳から、幼稚園は文科省で原則、3歳からの入園となっている。保育園の入園条件は親の病気や共働きなどの理由で保育に欠ける乳幼児が対象になる。

このため現行制度の下では、保育に欠けることのない、共働きではない家庭などは3歳になるまで家庭で保育する。こども家庭庁によると、0~2歳児の約6割が未就園児になるという。こうした若い保護者の負担軽減や子どもの成長を考慮し始まろうとしているのが「こども誰でも通園制度」で、現行の保育施設運営の制度を充実化するものではなく、まったく新しい革新的な制度として創出されたところがポイントだ。

「全ての子育て世帯を切れ目なく支援する」 理想はまことに素晴らしいのだが・・・

「全ての子育て世帯を切れ目なく支援する」。岸田前首相は子ども・子育て政策の発表時に強調した。出産直後までは「妊婦のための支援給付」や「伴走型相談支援事業」でサポートし、幼稚園入園前の6ヵ月から2歳までは「こども誰でも通園制度」でカバーしていこうという。

試行的事業の中では、1時間300円の利用料で月10時間まで1時間単位で利用が可能だという案が示された。「定期利用」と「予約利用」の2種類があり、どこの施設でも利用が可能になることを目指しているという。まるで24時間どこの支店でも利用できるフィットネスジムのような手軽さで保育サービスを受けることが出来るようなイメージ。「ワンオペ育児」に追われるママたちにとって、実現すれば、これほど心強い味方はない。

保育の質の低下を不安視する声

ところが現場からは「初めて利用する子どもを保育するのは難しい」「その子にかかりきりになって他の子どもに影響が出ないか」「専門の保育人材を確保できればいいが、地域によっては現状の保育士確保も難しい」など不安の声が出ている。

地域格差を指摘する意見もあり、全国一律的に「こども誰でも通園制度」を導入する難しさを懸念する見方も出ている。都市部では事業者が新規参入し「こども誰でも通園制度」の受け皿となるサービス事業を展開する地域もあるかもしれないが、地方は受け皿が少なく、地方自治体が運営する保育園でも人材が確保できなければ、受け入れ制限など起こりかねない。

「部活動地域移行」の二の舞にならないように

中学校の部活動地域移行では、文科省の方針の元、全国の中学校から部活動が廃止されようとしている。民間の受け皿のある都市部などは順調に移行できるかもしれないが、地方都市によっては受け皿が少なく、中学生のスポーツ、文化クラブ体験の機会が縮小されようとしている。教員の働き方改革が目的の一つで、本来は、旧態依然とした教育システムの抜本的改革や学校現場の教員数充実化、部活動専門人材の採用など進める方法もあると思うが、日本独自のシステムでもある「学校部活動」の廃止にまい進している。

乳幼児の保育はある程度、成長するまで親の元で愛情を持って行われるべきで、ママの孤立解消を目指すのであれば、伴走型相談施設の更なる充実化など他の方法もある。なにも人材不足で喘いでいる保育園・幼稚園に負担を強いるような制度設計をしなくてもいいと思うが・・・。まずは現状の保育園・幼稚園の運営支援をより充実化させることが子育て支援の強化に繋がるとの見方もある。これら準備不足の側面が残っており、「こども誰でも通園制度」がまだまだ付け焼刃的な支援策に見られている要因だろう。

まとめ

異次元の少子化対策に関しては、総論として多くの国民が賛成だと思う。ただ年間予算額が3.6兆円にも及んでいく巨額事業だ。「少子化対策」という錦の御旗の元であれば盲目的に賛成だというには、あまりにも事業費が大きすぎる。本当に効果のある事業になるように、「こども誰でも通園制度」も本格実施まであと一年、十分に実施主体となる地方自治体や現場の保育事業者とも調整を重ね、より充実した制度になることを願っている。

(執筆:スモール・サン)